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カリフォルニア見聞記(アメリカの社会と労働者事情)(5)

司法の保守化と対抗する労働組合・市民

 

 今回は、番外編です。

3月にカリフォルニア旅行から戻ったあと、労働運動の弱体化をもたらしかねない重要な判決が2件、連邦最高裁判所(以下、最高裁)からだされました。ひとつは、前回のカリフォルニアレポートで触れたJanus裁判ですが、もうひとつの判決もあわせて、考えていきたいと思います。

これらの判決に触れる前に、アメリカの最高裁について説明しておきましょう。最高裁は、9人の判事で構成されます。最高裁判事は、大統領が候補者を指名、上院の「助言と同意」をえて、任命されます。なお、日本と同様、任期はありません。20162月に保守派のスカリア判事が死去して以来、保守とリベラルが4人対4人の拮抗状態が続いていました。しかし、20174月にゴーサッチ判事が承認され、保守派優位の構成になりました。

 

集団訴訟への参加権の放棄

労働運動への逆風となるとみられるひとつ目の判決は、2018521日にだされました。公正労働基準法(FLSA)などに違反する行為があったとして、労働者が会社側を訴えた裁判ですが、焦点になったのは、労働者が集団訴訟に訴える権利をめぐってでした。賛成5人、反対4人でだされた判決は、雇用者が従業員に対し、雇用契約の時などに、集団訴訟への参加権を放棄するように合意を求めることは合法である、というものです。実は、アメリカではすでに2500万人もの労働者が、このような合意書にサインさせられているのです。

オバマ政権時代に、労使関係を扱う政府の独立機関である全国労働関係局(NLRB)は、このような合意は無効であるとし、オバマ政権もNLRBの判断を支持してきました。しかし、今回の最高裁判決で合法であることが確定してしまいました。この判決は、労働組合が裁判を起こす権利を直接制約するものではありません。しかし、労働者の権利を阻害し、労働環境の悪化を招く恐れがあるとして、労働組合は強く抗議しています。例えば、#MeToo運動で、職場でのセクハラや差別に関して女性労働者が起こしている訴えにも影響する可能性があります。

なお、集団訴訟は、英語のクラスアクションの訳語です。アメリカの民事訴訟で採用されているもので、多数の共通する損害賠償権を持つ者のうちひとりが、全員の賠償を求めて提起する訴訟形態をいいます。消費者による訴訟などに用いられることが多いようです。なおクラスアクションは、日本の民事訴訟法30条で規定される、選定当事者に類似しています。しかし、選定当事者と違って、個々の参加者からの授権を必要とせず、名乗り出た代表者が全員の利益を代表すると認められる限り、訴訟を行うことができます。

 

非組合員からの「公正な負担」を否定

ふたつ目は、627日にだされました。この判決も、賛成5人、反対4人でした。前回少し触れたように、この裁判は、イリノイ州政府の労働者で、非組合員のJanus氏によって起こされたものです。最高裁は、地方公務員の組合に対して非組合員は、費用負担の義務を負わない、と判断したのです。

「非組合員が組合費を払うってどういうこと?」と、奇妙に思われる読者が多いかもしれません。アメリカでは1977年に、次のような判決がだされています。地方公務員は、労働組合に加入する義務はないが、組合が存在する場合は、非組合員に対し、「公平な負担割合」として組合費の一部を払うことを要求することができる、という判決です。

アメリカでは、労働組合が雇用者との団体交渉権をもつには、組織化の対象となる労働者の過半数の賛成をえなければなりません。団体交渉権をえた労働組合は、組合員だけでなく、非組合員を含めたすべての労働者の賃金や労働条件について交渉を行うことになります。このため、労働組合が団体交渉に関わる費用を非組合員も負担することで、非組合員が「ただ乗り」になることのないようにするのは、筋の通ったことなのです。なお、労働組合が行う政治活動やロビー活動にかかる費用は要求できないので、非組合員の負担額は、組合費の8割程度となっています。過去40年余の間、20以上の州で、地方公務員の非組合員から「公平な負担割合」が徴収されてきました。

今回の判決は、1977年の判決を覆すもので、労働組合の財政弱体化と組織率の低下が予想されています。トランプ大統領は、この最高裁判決を支持し、民主党の財政に大きな打撃を与える、とツイートしました。労働組合から多額の献金が民主党に流れている状況を指しているものと思われます。

なお、この裁判の原告であるJanus氏は、保守系団体の支援を受けていました。アメリカでは、保守系の団体や個人が、莫大な資金を費やして、労働組合の力をそぐための活動をしています。過去においても、地方公務員の組合員に対して、組合費よりも「公正な負担割合」の方が安いし、脱退して組合から自由になった方が良いですよ、という手紙を郵送する、などということもやってきたそうです。

 

保守化の動きと市民・労働者の反撃

では、アメリカの労働組合は、どうなってしまうのでしょうか。興味深い話があります。私がカリフォルニアを旅していた今年3月、ウエストバージニア州における教員組合のストライキが話題になっていました。健康保険料が高騰するなかで、低いままに据え置かれてきた賃金の引き上げを求めるものです。学校の先生が生徒を放り出してストライキをするなんて、と批判の声があったものの、組合はストを決行。オクラホマ州など他の州にも、ストは拡がりました。

思いのほか教員ストを支持する世論が強かったことが、組合に勇気を与えました。しかも、教員がストを決行した州では、その後、教員組合の組合員数が軒並み増加したのです。オクラホマ州ではなんと13%も組合員を増やしました。一般市民の労働組合への支持も増えていて、ギャラップ社が昨年夏に実施した世論調査では、労働組合への支持は2003年以降で最高のレベルだったそうです。

トランプ大統領になり、保守的な政策が次々と実施され、社会の右傾化が懸念されるなか、労働組合員をはじめ、一般市民の間にも、運動への参加意識が強くなってきたようです。この3月、久しぶりに再会した日系人のボブは、トランプ政権の環境政策や、社会にまん延する差別に抗議するデモに参加している、といっていました。ボブは、州政府で大気汚染の規制に関わる仕事をしてきた科学者ですが、ベトナム反戦運動以来初めて、再びデモに参加するようになりました。政治・社会の進む方向に不安を覚え、いてもたってもいられなくなって街頭にでて、労働組合や市民が頑張っている、ということなのかもしれません。全米最大の社会主義団体、Democratic Socialists of Americaの会員数が、トランプ大統領就任前には、6000人程度だったのが、20188月現在48000人に達している、というのも同じ理由からなのでしょうか。

政治・社会の保守化に抗して、労働組合や市民が次々と運動を起こしているのです。私たちも、日本から連帯のメッセージを送りつつ、アメリカの運動から学んでいく必要があるのではないでしょうか。

(武庫川ユニオン機関誌8月号より掲載)

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