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カリフォルニア見聞記(アメリカの社会と労働者事情)(6)

未組織の組織化に向けた創造的な動き

 

 313日、サンフランシスコからベイブリッジを渡った町、バークレーにある、カリフォルニア大学バークレー校(UC Berkeley)のレイバーセンター(Labor Center)を訪ねました。アメリカでは労働問題の研究所Labor Centerをもつ大学が数多くあり、以前ご紹介した、UCLAの移民フォーラムも、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のLabor Centerが主催したものでした。今回は、UC Berkeley Labor Centerの元所長で、1年前に退職した後も、労働組合へのコンサルティング活動等で活躍するケイティ・クウォン(Katie Quan)さんに聞いた、最近の労働組合活動の特徴についてご紹介します。

 

コミュニティ団体や市民団体と共闘する労働組合

“Bargaining for the common good”、共通の課題解決に向けた交渉、とでも訳すのでしょうか。労働組合は、団体交渉権を行使して、主に、労働者の賃金や諸手当の向上を目指すものです。しかし最近、積極的にコミュニティ団体(Community organization)や市民団体と共闘し、もっと幅広い問題の解決に取り組むようになってきたそうです。英語の「コミュニティ」は、日本語の「地域」よりももっと意味が広く、必ずしも地理的な場所に限定されない共同体を意味する言葉です。労働組合がともに闘うコミュニティ団体は、町の住民団体だったり、人種差別と闘うマイノリティの団体だったり、消費者団体だったりするわけです。コミュニティをより良くすることは、そこに属する組合員の利益にもなり、また、労働組合とコミュニティ活動家が継続的な関係を結ぶことで、社会変革の大きな力になる、という認識がこのような動きにつながっています。

コミュニティとの信頼関係を築くため、労働組合員が、コミュニティの活動や行事に参加したり、人々が集う教会に通ったり、という草の根の努力をしている、とクウォン元所長は話してくれました。そうして築いた関係をもとに、コミュニティのもつ課題を掘り出し、どうしたら解決できるかともに考え、ともに闘うのです。

前出のUCLA移民フォーラムも、このような動きの一環だととらえることができます。組合関係者が駆け付け、連帯の声をあげていましたが、多くの移民を組合員に有する労働組合と、移民の権利擁護の活動家が連携することは、双方にとって大きな意味があるのです。最低賃金15ドルを求める全国的な運動(Fight for 15)も労働組合と多くの市民団体が連帯して繰り広げ、成果をあげつつあります。いろいろな異なる団体が連携しているからこそ、地域における政治的な圧力にもなり、変革を起こすことができるのでしょう。

思えば私も、専門学校に勤務していた時、賃上げだけでなく、教育環境の向上について一生懸命に交渉しました。また、武庫川ユニオンが所属する尼崎地区労は、毎年、尼崎市の抱える課題を広く取り上げ、市と団体交渉を行っています。まさに、Bargaining for the common goodです。ただ異なるのは、市民団体等を巻き込んだ共闘になっていないことです。私の専門学校での経験も、私たち組合員だけできりきり舞いをしていて、非組合員や学生の協力を取り付けるには至りませんでした。組合外の人たちと積極的に連携を組む、という姿勢は、今後私たちも学ばなければならない、と思いました。

 

個人請負労働者の組織化

 日本でも個人請負で働く労働者が増えていますが、アメリカは日本以上ではないか、と思われます(といっても、その正確な数は把握できない、というのが実情だそう)。武庫川ユニオンの組合員にも個人請負契約で働いている方々がいます。ユニオンが組合員の契約先と団体交渉を行うことはよくあることです。しかしアメリカでは、個人請負で働く人たちは、契約先と対等な関係にあり、労働者ではない、という考え方があり、彼らが労働組合を組織することを困難にしています。実際には、賃金は低く、企業の健康保険や年金組合に加入できず、不安定な雇用や収入による生活を強いられているばかりか、労働者ではなく個人事業主である、という位置づけから、地域の最低賃金が適用されず、病気休暇もなく、労働安全衛生規則も適用されない個人請負労働者がたくさんいるのです。労働組合を最も必要とする人たちが組合加入を阻まれている状況です。

このような状況を打破するために、労働組合が努力しているのは、地元における政治への働きかけです。その例として、クウォン元所長は、個人請負契約で働く在宅介護労働者とタクシー運転手の事例を語ってくれました。

在宅介護労働者の組織化は、1990年代の成功例です。カリフォルニア州の介護制度は、国と州からまかなわれる資金を得て、利用者個人が介護労働者と契約する、という形をとっていました。なお、ここでいう在宅介護労働者は、政府の福祉政策である在宅支援サービス(IHSS)の受給者に対する仕事をしている人に限られます。最低賃金以下ということもめずらしくなく、健康保険制度もなく、労働組合を作って団体交渉しようにも雇用者が誰になるのか法律的に定められない、という問題を抱えていました。悪条件のためにすぐに離職してしまう人が多く、介護利用者やその家族に負担を強いることにもなっていました。

そこで、既存の労働組合と高齢者の権利擁護団体、障害者団体が共闘して、州議会に強力なロビー活動を行い、その結果、介護ヘルパーの雇用者としてパブリック・オーソリティと呼ばれる機関を郡ごとに設置することができる法律を通すことに成功したのです。これにより、パブリック・オーソリティの設置条例を制定した郡では、介護労働者の労働組合が組織されました。例えば、ロサンゼルス郡では74000人、サンフランシスコ郡では8000人、バークレーなどが含まれるアラメダ郡では7000人が労働組合員になりました。そして、労働条件についてそれぞれのパブリック・オーソリティと団体交渉ができるようになり、その結果、賃金が改善され、健康保険に加入できる郡もあらわれ、それにともない離職率も改善されたそうです。

もう一つの例は、今まさに進行中のウーバー(Uber)の運転手の組織化です。最近急成長のタクシー会社ウーバーでは、運転手として契約した個人が、自家用車でタクシー業務を行うもので、利用者と運転手のスマートフォンのアプリを通して、コンピュータが配車業務を担います。アメリカでは、通常のタクシーよりも安くて便利で、タクシーといえばウーバー、というぐらい利用されていますが、その運転手はとんでもなく悪条件で働かされているのです。個人事業者ですので、車の保険も、業務中の事故も、すべて運転手が処理しなければなりません。健康保険も年金もなく、勤務時間は不安定で、なおかつ、突然契約料の引き下げが提示されたり、契約を切られたりという問題もでてきました。

このため、ワシントン州のシアトル市で、ウーバーの運転手が集まり、労働組合やコミュニティと連携して、市議会議員に働きかけ、201512月、個人契約で働く運転手たちに労働組合を組織する権利を与えると同時に、ウーバーのような会社に対して運転手たちとの交渉に応じる義務を課す条例を通させました。労働者のリーダーシップとコミュニティの支援がこの成功をもたらした、と労働組合側は分析しています。さて、シアトル市のウーバー運転手は組合を組織し、労働条件を改善できたのでしょうか。2014年にチームスターズという運転手を中心にした組合の部会として設立され、活動はしています。しかし、団体交渉は始まっていません。米国商工会議所が提訴し、20185月に連邦第9巡回控訴裁判所が原告の主張の一部を認め、条例の施行がさし差し止められたためです。今後、どうなっていくか、注視していきたいと思います。

                                                                  (武庫川ユニオン機関誌9月号より掲載)

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