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カリフォルニア見聞記(アメリカの社会と労働者事情)(7)

「銃社会アメリカ」に立ち向かう高校生に連帯して


高校生が政治家に突きつけたこと

 2018年3月14日、旅の最終日です。ちょうどひと月前の2月14日、フロリダ州パークランドにあるマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校で、19才の元生徒が銃を乱射し、17人が死亡、17人が負傷しました。トランプ大統領は、すぐさま犠牲者への哀悼の言葉をツイートし、2日後には夫人とともに負傷者の見舞いに出向きました。若き犠牲者を悼み、全米で半旗が掲げられました。
 繰り返される銃による悲劇。そのたびに犠牲者を悼み、銃規制の必要性が議論されるものの、根本的な対策が取られないまま、次々と悲劇が繰り返されるアメリカ。しかし、マージョリー・ストーンマン・ダグラス高校の惨劇を生き残った生徒は、それを許しませんでした。彼らは政治家に、「お悔やみの言葉はいらない、銃規制のために具体的な行動をとれ」、と迫ったのです。
 トランプ大統領をはじめ、共和党の多くの政治家が銃規制に消極的なこと、銃規制に反対する全米ライフル協会(NRA: National Rifle Association)から、多額の政治献金を受けていること、に対して、高校生の怒りが向けられました。マージョリー・ストーンマン・ダグラス高校(頭文字MSD)の生徒20人は、Never Again MSD(MSDを繰り返すな)という団体を結成し、銃規制を求めて活動を開始しました。
 彼らの活動は、ほかの高校生に影響を与え、National School Walkoutという高校生による団体が生まれました。直訳すれば、全国学校ストライキ、です。そして、3月14日、事件から1ヵ月にあたり、午前10時から、銃によって命を落とした17人を悼む17分のストライキを全米の高校生に呼び掛けたのです。多くの高校生が、教室を出て、それぞれの高校で思い思いの場所に集まり、午前10時から、亡くなった17人の名前を読み上げながら一斉に1分ずつの黙とうを行いました。
 滞在していたオークランドをはじめ、サンフランシスコ湾岸地域でも多くの高校生が集会を行いました。その手には、”Never Again(繰り返すな)”、”Enough is Enough(もうたくさんだ)”と書いたプラカードが高く掲げられていました。オークランドテクニカル高校では、全校生徒2,000人のほとんどが参加し、同校の校長は、生徒を全面的に支持しました。サンフランシスコの高校では、生徒とともにサンフランシスコ市の市長も集会に加わりました。
すべての高校で、教師が生徒に理解を示したわけではありません。生徒を校舎に閉じ込めたり、保護者に電話して子どもをストに参加させないよう協力を求めたり、ストに参加すると懲罰の対象になると脅したり、ということもありました。にもかかわらず、教師や親の制止の声を振り切って多くの高校生が教室を出ていきました。
 教員の労働組合、American Federation of Teachers (AFT)やNational Educators Association (NEA)、教員の活動家グループのBadass Teachers Associationは、生徒の学校ストライキへの支持を表明しました。ただ、組合のブログなどを見ると、現場の教師には迷いもあったようです。生徒を守るべき存在として、生徒を集会に送り出すことに不安を抱くことは、私も教師のはしくれとして、理解できるものです。そんな大人たちに対して、National School Walkoutを結成した女子高校生は、こう言っています。「そういう活動は大きくなってからにして、今は学校の勉強だけしなさいって言われる。でもそれは、正しい社会のあり方じゃないと思う。」


アメリカ社会をけん引する高校生たち

 高校生がアメリカ社会の中で存在感を示し、リーダーシップを発揮しています。前述のNever Again MSDは、企業に対してNRAとの関係を断つように要求。NRAの会員に会員優待価格で商品を提供するなどしていた10社以上の企業が、高校生の要求を受け入れました。この動きに呼応して、ニューヨーク州のクオモ知事(民主党)は、NRAと取引のある企業に関係を断つよう強力に働きかけ、保険会社がNRAとの取引を中止。NRAはドル箱だった自前のテレビ局NRATVの損害賠償保険を契約できなくなり、NRATVの存続が危ぶまれる事態になっています。その結果、NRAの財政状況は急激に悪化しているのだそうです。
 11月は、アメリカで中間選挙が行われます。この4月、ハーバード大学が若者を対象に行った調査では、30歳未満の有権者(18才以上)の37%が中間選挙で投票に行く、と回答しています。この数字は、調査を始めた2010年以来最高なのだそうです。2014年は20%だった、ということなので大幅な増加です。もちろん実際に選挙に行く人の割合は異なる可能性もありますが、若者の政治への関心が高くなっている、ということは明らかでしょう。高校生たちの銃規制への活動がその一因となっている、と考えられています。実際、Never Again MSDやNational School Walkoutは活動目的の一つを、若者を選挙に向かわせることとしており、11月の中間選挙での投票を呼び掛ける活動をしています。
 “Never Again”、 繰り返すな、という高校生の叫びにもかかわらず、学校での銃乱射は繰り返されてしまいました。3月18日に、ニューメキシコ州のサンタフェ高校で同校生徒が銃を乱射し、10人が死亡し、13人が負傷しました。トランプ大統領は、学校の教師に銃を持たせるべき、と発言していますが、銃規制を求める高校生や社会の怒りの火に油を注ぐばかりです。
 さて、3月14日、私は高校ではなく、カリフォルニア大学バークレー校(UC Berkeley)のキャンパスにいました。朝の10時、小雨の降る中、高校生を支持する人の輪に加わり、17人の名前が読み上げられるのを聞いていました。犠牲者や遺族に思いを寄せ、お互いの悲しみを分かち合う、とても静かな集会でした。
 アメリカでは3億丁以上の銃が所持されているといわれています。銃関連の事件の現状把握と社会啓発を行うNPOのGun Violence Archiveによると、2018年9月26日現在、今年だけでも銃による死者は1万777人、負傷者は2万1065人、ティーンエージャーの死傷者が2094人にものぼります。高校生たちが取り組んでいるのが喫緊で深刻な問題であることがわかります。もうすぐ中間選挙が実施されます。高校生のエネルギーに刺激されてアメリカの銃社会は変革を遂げることができるのでしょうか。

180314Berkeley (2) カリフォルニア大学バークレー校での集会(2018年3月14日)

                                                       

                                                            (武庫川ユニオン機関誌10月号より掲載)


 


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