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カリフォルニア見聞記(アメリカの社会と労働者事情)(8)最終回

ヘイトと闘う市民

 ヘイト(憎悪)。
 日本でも最近、ヘイトスピーチが大きな問題になっていますね。異なる文化・宗教・価値観をもつ多様な人種により構成されるアメリカでは、ヘイトスピーチをはじめとしたヘイトクライム(憎悪犯罪)は常に起きてきました。さらに、憎悪問題の調査研究などを行っているNPO、南部貧困センター(SPLC)によると、全米の10大都市において、ヘイトクライムが4年連続で増加しています。このような状況に、「ヘイトを許さない」、と行動するアメリカ市民も少なくありません。カリフォルニアで見聞した、そうした行動をお伝えしたいと思います。


“Oakland Stands United Against Hate”(写真1)

 この写真は、オークランドの繁華街にある小さなレストランに掲示されていたポスターです。「オークランドは団結してヘイトに反対する」という意味ですが、街のあちらこちらにこのポスターが貼られていました。
 一斉に貼りだされたのは、昨年2017年の夏、始まりはとなり町のバークレーでした。ベトナム反戦運動やリベラルな風潮で知られるバークレーですが、2017年の前半、極右グループによるヘイトスピーチが相次いでいました。そんな中、バークレーのアレグィン市長の依頼で、地元のデザイナーが作ったのが、シンプルで力強い、“Berkeley Stands United Against Hate”のポスターです。
 バークレーの印刷会社オータムプレス(グラフィック・コミュニケーション・ユニオン加盟)で、まず2万枚が印刷されました。次の週には、さらに2万枚が、今度は主語をバークレーからオークランドに変えて印刷されました。その後、主語になる都市の名前を変えて次々とポスターが印刷され、周辺地域に拡がっていったそうです。
 2017年の8月27日に、極右団体がバークレーの市庁舎前広場で反マルクス主義集会と銘打った集会を計画していました。それに先立ち、アレグィン市長はポスターの掲示を市民に呼びかけたのです。その反響は大きく、配布場所にあったポスターが、あっという間になくなってしまった、とバークレーに住む友人は話してくれました。
 地域住民や企業の、団結してヘイトと闘う強い意志に、極右団体は集会を中止。替わって8月27日は様々な場所で、反ヘイト集会が催されました。あきらめきれない少数の極右活動家がバークレーの市庁舎前広場に集まってきて、数で大きくまさる反ヘイト集会参加者と対峙。一部で暴力に発展してしまったとはいうものの、このポスターが、非暴力でヘイトを退けた、といっても良いと思います。
 8月27日後も、地域の住民や企業はポスターを掲げ続け、ヘイトと闘う団結を示したのです。そして1年がたち、オークランドの非営利団体The Working Groupとバークレー市が協働して、今年2018年11月11日からの1週間を“The United Against Hate Week(反ヘイト団結週間)”と銘打って、様々なイベントを企画しているのだそうです。周辺の地域にも参加を呼び掛け、アルバニー市、オークランド市、アラメダ郡、マリン郡も参加を表明。アラメダ郡のカストロバレーでは、反ヘイトウォーキングと詩の朗読会が、フリーモント市では、仲裁の仕方や非暴力の歴史について学ぶ勉強会が催される予定です。立場を超え、地域が団結してヘイトに立ち向かう。日本でも学べることが多そうです。


oakland.jpg 写真1 Oakland Stands United Against Hateのポスター


“No matter where you are from, we’re glad you’re our neighbor.” (写真2)

 この写真は、デービスの街角で撮ったものです。「出身がどこであろうと、あなたが隣人で嬉しい」という意味。英語とスペイン語、そしてアラビア語で同じことが書かれています。今アメリカでは、メキシコをはじめとする中南米からの移民とアラブ系移民が、ヘイトのターゲットにされやすい状況を考慮しているのでしょう。
 このポスターが生まれたのは、カリフォルニアから遠く離れたバージニア州のハリソンブルグという小さな町。キリスト教会の牧師Bucher氏が作りました。ハリソンブルグは以前から黒人の多い町でしたが、この20年間で、中南米出身者や中東出身者が多くなったそうです。
 一昨年の大統領選で移民を敵視するような言動が繰り広げられたことに対し、Bucher牧師は、なんとかしなくては、と上記の言葉を英語・スペイン語・アラビア語で書き、彼の教会に掲げました。その小さな一歩が、多くの人々の心を揺さぶり、SNSを通じて全米各地のみならずカナダにもこのポスターが掲げられるようになったのです。人種や宗教、国境も超えて拡がっていることは、隣人を温かく受け入れる、ということが、文化の垣根を超えた、人間の普遍的な良心に基づくものなのだ、と思わせます。このポスターはインターネットからpdfでダウンロードできるようになっています。日本語バージョンもありますよ(https://www.welcomeyourneighbors.org/download-pdf)。


日系人の思い

 アメリカで同時多発テロが起きた2001年9月11日、私はカリフォルニア州のデービスに住んでいました。アメリカ社会のショックと悲しみ、怒り、そしてその後頻発したアラブ系移民に対するヘイトクライムを覚えています。その時いっしょに仕事をしていた日系人のボブの言葉が忘れられません。
 太平洋戦争中、アメリカ西海岸とハワイに住む日系アメリカ人が、財産をはく奪されて収容所に入れられていたことをご存じでしょうか。ボブの両親もそうでした。一生懸命働いて築いてきたすべてを失い、厳しい収容所での生活を生き抜き、戦後はゼロからのスタート。そればかりか、収容所を出てからも日系人に対するアメリカ社会の目は厳しく、アメリカ人として受け入れられない年月がその後も長く続きました。ヘイトを身に染みて経験してきた日系人だからこそ、今おきているアラブ系移民へのヘイトを見過ごしてはいけないんだ、と語ってくれたのです。
 そして、今回の旅で久しぶりに再会したボブは、また同じ言葉を繰り返しました。日系人だからこそ、今盛んに起きている移民差別を許してはいけないんだ、と。事実、同時多発テロの後、ヘイトのターゲットとされているイスラム教徒に真っ先に手を差し伸べたのも、トランプ政権下、特定の国の人たちの入国が制限されたことにいち早く抗議の声を挙げたのも日系人でした。ボブが、ベトナム反戦運動以来のデモに参加するようになったのも、日系人だからこそ、目をつぶってはいけない、という強い使命感があるからなのだと思いました。


 この原稿を書いている11月8日。アメリカの中間選挙が終わったところです。アメリカの分断はもっと深まるのではないか、という論調が聞かれます。でも、ヘイトを許さない、という強い思いを持ち、行動するアメリカ人もたくさんいることを皆様に知っていただきたいと思います。


davis.jpg  写真2  No matter where you are from, we’re glad you’re our neighborのポスター


(武庫川ユニオン機関誌11月号より掲載)


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